「めざせ!日本酒の達人 新時代の味と出会う」
著者:山同敦子 (ちくま新書 2014/5)
書評第三回はこれまでと全く違う、趣味的な一冊
私はあまりお酒を飲まない方なのですが、飲むとしても付き合いのビール、ウィスキーくらいで日本酒というと「高いのにほんの少ししか注いでくれないお酒」程度の認識で、たまに飲んでもどの日本酒も同じように感じてあまり好きではありませんでした。
しかしある時、ふと連れられた居酒屋の店主が日本酒通で進められたお酒が素人の私にも「何かが違う」と思わせるおいしさ。
それからなんとなく本屋に行ったときに見つけたのは本書になります。
さて、タイトルに「日本酒の達人」と書いてある通り本書は「日本酒とは?」について味、製法、産地や酒造、果てはコメ農家に至るまでを細かに解説しています。
そのような産地でそんな水でどのように作ったら甘いのか辛いのか、どんなお酒になるのかをワインなどの他のお酒とも比較しながらわかりやすくまとめられています。
また昨今の日本酒が私のイメージするお酒ではなく炭酸入りのものから甘いものまで、若い人向けに作られた日本酒とその酒蔵の主人のインタビューなど、そのマーケティングの方法論や好みの分析は思わず「なるほど」と思わせる内容です。
さらに日本酒と言えば「切れ味」「辛口」「濁り」といった専門用語のようなものが多くあり、正直それがなんなのか、どういう違いでそんな味なのかがイメージし辛いと思います。私もメニューなどに書いてあるその辺りがよくわからず、苦手でなんとなく日本酒を敬遠しているところがありました。
それを本書は日本酒の「キレ」とはどういった意味でどんな味なのか、その味が引き立つのは冷酒なのか熱燗なのか、などが実例を踏まえて挙げられており、値段もそう高くないお酒が中心のため、私のようにとりあえず挙げられている日本酒を2.3種類飲むだけでも、かなり日本酒に対する印象は変わると思います。
そして、本書は全部で300ページほどですが、そのうち231ページからは「注目したい気鋭の造り手」として55人の蔵元が紹介され、カタログとしても利用できます。
またそれぞれのおすすめの酒と、前半で紹介した味やキレといった評価でどのような日本酒なのかが一覧表としてまとめられています。
まるで四季報のようです。
結局は飲み物ですので好みや感じ方は異なりますが、その基準となる数値をあらかじめ明示してあるので、初心者でも「あぁこういう酒ってこういう味なのか」とイメージしやすくなっています。
日本酒の感じ方が個人個人によることを本書では次のように表現しています。
お酒を味わったら全体像をつかんでみましょう。
景色や人物に例えるのも楽しいものです。
友人たちと集まる場なら著名人に例える遊びもオススメです。
お酒の表現に正解はありません。
自分の言葉を口にすることで表現力を身につけましょう
つまり酒を飲むだけでなく、それを基にした話題作りも提案してくれています。
本書はそんな日本酒について少し詳しくなる、興味をもつだけで飲み会の場で一目置かれるようになる。楽しい話題を提供できる。一生どの年代にでも使える話題が手に入る。
改めて日本酒の奥深さ、歴史の深さを学ぶきっかけとなる。
本書はそんな一冊となっています。